九十九人九十九色?【私の読書記録Vol.5】

 

今回は、フランスの詩人・作家レーモン・クノーの「文体練習」という本を紹介します。日本では、この作品の他に「地下鉄のザジ」という作品が特に有名なようです。

 

私がこの本に出合ったのは書店員時代でした。とある日に、いつも通り売り場で入荷した本の品出しと棚の整理をしていたところお客さんに在庫を聞かれ、自分の担当である文芸書の棚に1冊あったもののすぐに場所が思い浮かばず、少し探して見つけ、帯が少し日焼けした状態でしたが手渡すとそのお客さんが「ずっと探していた」ととても喜んでいるのを見て興味がわいたのがきっかけです。

 

その数日後には買ったのではないかと思います。本のサイズが一般的なハードカバーの単行本のサイズより少し縦長で、シンプルな装丁がお洒落ですぐに気に入りました。

 

さてこの本の内容ですが、ある男の体験した以下のような短い出来事を、99通りに書き分けて綴っています。まさに文体練習、究極の言葉あそびだと思いました。

 

「ある日、バスのなかでソフト帽をかぶった26歳くらいの男が、隣の乗客が押してくるので腹をたてる。隣の乗客に対するその男の口調はたいした剣幕ではなくて、別の席があくとそそくさと座る。その2時間後、サン・ラザール駅前のローマ広場でその男をまた見かける。連れの男がいて、「君のコートにはもうひとつボタンが必要だ」と言っているのが聞こえる。」

 

上記の短い出来事を、くどくど書いてみたり、たった4行にしてみたり、若者言葉にしてみたり、堅苦しくしてみたり、無関心にしてみたり、図で表してみたり、裁判での尋問っぽくしてみたり、とにかく99通り、テンポよく同じ物語が続いていきます。

 

原著は知る人ぞ知るフランス語のテキストということらしいのですが、私はこの本を読んで、つくづく日本語の奥深さを実感しました。訳者の努力も大したものだと思いました。そして、自分の目の前で現実に起こっている出来事も、捉える人の数だけ無数の世界があるんだろうなと、実生活における物事の見方捉え方を考え直すきっかけを与えてくれました。

 

もし興味がわいたという方は、この機会に是非どうぞ。

 

→ レーモン・クノー「文体練習」

 

 

 

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