分業・細分化され全体を考える必要のなくなった良心の欠如した世界で、要約できない人生を生きていく。【私の読書記録Vol.20】

 

 

今回は、伊坂幸太郎の「モダンタイムス」という本をご紹介します。以前紹介した「ゴールデンスランバー」の次に出た作品で、2008年10月に講談社から刊行されました。当時書店員だった私は、自分のお店にハードカバーの単行本が新刊で入荷後即買ってあっという間に読んでしまった記憶があります。当時文庫担当の方から「伊坂幸太郎が面白いよ」と教えてもらい、オーデュボンの祈り、ラッシュライフ、重力ピエロ、アヒルと鴨のコインロッカー、死神の精度、など初期の作品をほぼ全て読み、私の中で伊坂幸太郎ブームが続いていて、ゴールデンスランバーが自分の中でベスト1だったのですが、その次に出たこのモダンタイムスですぐに私の伊坂ベスト1は塗り替えられました。

 

あるWEBサイトの仕様変更の業務を引き継ぐことになったシステムエンジニアの主人公渡辺。失踪した前任者の足跡を追う中、渡辺の周りの人物に次々に起こる不幸・・・紹介したいのですがネタバレしたくないのでここではあまり多くを語りたくない。。。私のようにディストピアなお話が好きな方は迷わず読んでいただきたい本ですが、ハッキリとした展開のお話が好きな方には読後感はあんまりスッキリしないのかもしれません。途中で断念してしまうかも。またモダンタイムスは、初期の作品の中の魔王という作品の50年後の世界を描いたお話で、先に魔王を読んでおくとより楽しめますが、私のようにモダンタイムスを先に読んで魔王に戻るのもまたいいかも。

 

このモダンタイムスにおいても伊坂の作品を通して言える登場人物のユーモア満点の小気味いい会話と散りばめられた伏線の回収の気持ちよさがあります。お話の内容はもちろんそうですが、作中で取り上げられるアドルフ・アイヒマンや参考文献などにも興味を持って関連本を読み進めるのも、モダンタイムスという作品をより立体的に理解するためにいいかも。特にギュンター・アンダースの「われらはみな、アイヒマンの息子」という本は、そのエッセンスを作中に多く感じることができるし、現在の日本社会においても言えることはあるかもしれません。とにかく私の伊坂的ディストピアナンバー1の作品です。

 

世界が分業化・細分化されて、ヒトは“世界”という賢い仕組みの歯車の一部になってしまい、全体を想像する力が(必要が)無くなり、目の前のことを受動的にただただこなしていく・・・僕の私の人生、このままでいいのか?と思ったときには、ぜひ手に取って開いてみてほしい1冊です。

 

Amazon → モダンタイムス著者伊坂幸太郎さん作品紹介ページ

 

 

 

 

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